「多文化共生をめざす川崎歴史ミュージアム」設立趣意書
2024年は川崎市政100周年です。工業都市・商業都市として成長した川崎を支えてきたのは、地付きの人に加え、沖縄を含む九州や北海道まで全国の地方や外国からの移住者です。現在、川崎市には146カ国5万794人(2023年12月末現在)の外国籍住民が暮らしています。日本で世代を重ねてきた家族や、外国にルーツを持つ日本国籍の人も増えました。
この街の多文化の土台がどのようにできて、市民や行政施策がどう対応してきたのかを記録し、未来の人々とりわけ子どもたちに、引き継いでいきたいと考えます。そして、「誰もがふるさとと呼べる街」にしていくために、誰もが差別しない/されない街をつくる不断の努力が必要であることを、改めて確認しなければなりません。100年前の関東大震災で多くの朝鮮人・中国人が理不尽にも襲われた当時の一般庶民が抱いていた差別意識は、解消されたでしょうか。残念ながらそうは言えない現実があります。今も形を変えて街頭やネット上にヘイトスピーチが氾濫しています。これでは、人権と尊厳が守られる街、住民として誇れる街をつくることはできないのではないでしょうか。
川崎では、「共に生きる」という思いに立脚した取り組みが積み上げられてきました。そのはじまりは日立就職差別裁判支援で、在日コリアンの進路の壁に、日本人と在日コリアンが共に立ち向かいました。その後も、公営住宅入居や児童福祉手当の国籍条項の撤廃、そして指紋押捺拒否運動、在日外国人教育基本方針の制定を求める運動などが起こります。また、全国初の施策として、参政権のない市民の意見を市政に反映させる外国人市民代表者会議の設置、政令指定都市初の一般職公務員の採用時における国籍条項撤廃がありました。近年注目を集めたのは、「オール川崎」の力でヘイトデモを止めたことです。反ヘイト運動の高まりは、国会を突き動かして超党派によるヘイトスピーチ解消法の制定を後押しし、川崎市でも、全国で初めての罰則規定を盛り込んだ、差別のない人権尊重のまちづくり条例ができました。
2005年3月、「川崎市多文化共生推進指針」が策定されました。「共に」と言うとき、大切なのは、思想や立場の違いをこえて、子どもたちのアイデンティティと教育の未来のために大人が協働することでしょう。市内には、在日朝鮮人の子どもたちがのびのび育つための民族教育を戦後直後から重ねてきた朝鮮学校が2つあります。また、ニューカマーの子どもたちについては、在留資格が不安定になりがちであることや、進路保障問題、母語教育の場の不足など多くの問題があることに、しっかり目を向けていく必要があります。
2023年4月、わたしたちは川崎に、多文化共生をめざすための歴史ミュージアムを作ろうと動き出しました。多文化共生と人権を守る闘いの足跡を伝える場、関心をよせる訪問者が現地で資料や証言に接し学ぶ場、また多様な人々が出会うコミュニケーションの場が、この川崎にあったらよいと考えたからです。
例えば次のような常設展示を思い描きます。近現代の地域史年表や生活文化財の展示をみて、地域の小学生が自分の親や祖父母や渡日一世がどんな経験をして生きてきたのか、歴史の流れの中で捉え直す。教科書には載らないが重要な歴史がクローズアップされ、アイデンティティ確立の手がかりを得る。違いや困難な課題をも超えて共生の未来を描く場、学びあいと連帯を深める場が、必要です。
多文化共生をめざす歴史ミュージアムを、地域内外のみなさんとともに作っていきたいと思います。こうした趣旨をご理解のうえ賛同いただき、正会員・賛助会員・維持会員になってくださいますよう、また今後の活動を共に担ってくださいますよう、お願いいたします。
発起人一同